現代を生き抜く「伝統工芸」

2024.02.19雑貨

日本には様々な伝統工芸があります。どの工芸も職人技が光る素晴らしいものばかりですが、後継者不足やライフスタイルの変化による需要減など、多くの課題を抱えているのが現状です。そんな中、伝統工芸を継承・発展させようとする動きや、身近に伝統工芸を感じられるようなモダンな製品も登場しはじめました。

モダンに変身

“漆塗り”は海外でも人気の高い日本を代表する伝統工芸です。「お手入れが難しく高価なものが多い」というイメージがあるためか、以前は、暮らしの中で日常的に使う道具としては不向きだと考える人が大半でした。しかし、近頃ではそんなイメージを覆すような漆塗の作品が次々に登場しています。例えば、「漆器が実は普段使いに適している」ということをメインコンセプトに漆塗りの新しい食器シリーズを発売した工房があります。もともと漆は、防腐性に富み、抗菌作用があり、その上、器を割れにくくするため食器に適しているのですが、反面、傷付きやすいといった特徴もありました。それを、技術革新により食洗機や電子レンジに対応し、さらにお手頃な値段にすることで、消費者の懸念を払拭。デザインもビビットなカラーや洋食器のような柄を組み合わせることで、現代的なインテリアや食のスタイルに馴染む人気のシリーズになっています。

京都市では伝統工芸を残すために、インフルエンサーや若手職人とコラボレーションして伝統工芸品をモダンな作品に変身させるプロジェクトを積極的に行っています。
中心的なイベントである「NEO工芸市」は、”工芸×サスティナブル”をテーマにした工芸市です。出展するブランドは25歳以下の若手クリエイターの手によるブランドのみに限られています。例えば、アクセサリーや鞄を作るアップサイクルブランド※では、西陣織の金糸の技術を生かし、捨てられるはずだったヨットの帆を使って作品を作っています。ヨットの帆が金糸で彩られ、とても個性的で丈夫な作品に変身しています。金糸の繊細な美しさは海外からの観光客の関心も高く、伝統の技術と新しい発想が生み出した注目のブランドとなっています。


※アップサイクルとは、廃棄予定であったものに手を加え、創造的な価値をつけて新しい製品へと生まれ変わらせる手法です。

改善と新しいアプローチ

ふるさと納税の返礼品として伝統工芸品は人気のジャンルになっています。秋田県大館市では、ナチュラルであたたかみのある空気感が人気の「大館曲げわっぱの小判弁当箱」を、岩手県奥州市ではガス火にもIHにも対応した「南部鉄瓶」を返礼品に設定し好評を博しています。中でも、鹿児島県川内市の返礼品である兜(かぶと)は100万円を超える金額にもかかわらず注文が殺到し、入手に半年以上も待つほどの大人気となっています。その理由は、大谷翔平選手が所属していた米大リーグのエンゼルスで、ホームランを打った選手が兜をかぶるパフォーマンスが話題となり、その兜が川内市にあるメーカーのものであったからです。

こうした良い兆しがある反面、伝統工芸のメーカーは、”モノ作り”に専念するあまり、総じて自社で開発・企画・宣伝などのノウハウを持っていないという弱点がありました。そんな中、自社製品に限らず質の良い伝統工芸品を集めて売り場を作り、SNSなどを通じて海外にも販路を広げる活動をするメーカーが出現し、風向きが変わり始めています。メーカーが各自で戦うには小規模すぎる点を改善し、数社が共同で事業を拡大できる体制を作り、なおかつ、国内はもとよりインバウンドや海外にも販路を拡大し、成功への道を歩み始めているようです。これに呼応するかのように消費者の意識も変わりつつあります。手間のかかる工芸品は価格がある程度高くなることを理解し、その価値を受け入れるような土壌が徐々に育ってきているとのこと。日本の素晴らしい職人技を、末永く将来に残したいと思う人が、今後も益々増えて欲しいものですね。

川内市のメーカーの兜
南部鉄瓶

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KEI

写真付きコラムの執筆。コミュニティクリエイター。フォーチュンテラー(タロット)。日本大学藝術学部写真学科卒業。

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