2020.08.31食べもの
平成の初めの頃までは、一般家庭で使われていたオイル(油)は、「菜種油(サラダ油)」と「ごま油」ぐらいでした。その後、登場したのが「オリーブ油」で、これはパスタやサラダといったイタリアンなメニューの必需品として家庭内に定着していきました。時の経過と共にちまたでは『健康志向』が高まり、『油は健康の敵』といった通説が台頭しはじめます。そんな中、オリーブ油は「どうやら身体に良い油らしい」ということで、メディアでも注目されるようになりました。
オリーブ油に端を発した『オイルと健康』の話題は、『飽和脂肪酸vs不飽和脂肪酸』と言っても過言ではありません。もともと、油には三大栄養素のひとつ「脂質」が多く含まれており、生命維持や身体活動には欠かすことのできないエネルギー源なのですが、「脂質」には「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」と呼ばれる2種類があり、それぞれ役割が違います。ともすれは「飽和脂肪酸」が悪玉、「不飽和脂肪酸」が善玉という扱いで話が展開されることが多いのですが、それぞれの役割があり、それを理解した上でバランス良く摂取することが望まれます。
「飽和脂肪酸」はバター、ラード、牛脂などといった動物性脂肪に多く含まれています。いわゆる「旨み」があり、食欲を増進しエネルギー源として大切な存在なのですが、もともと体内で作ることができる脂質であり、その分食事から摂取しすぎて過剰になると、体内で固まり血管をつまらせることがあるため、動脈硬化や心疾患などの危険性を高めることが指摘されています。一方、「不飽和脂肪酸」は植物や魚に含まれ、抗酸化作用や悪玉コレステロールを減らす働きがあり成人病の予防に効果が期待されていますが、体内で作られないため、食事などで摂取する必要があります。
ここ数年、様々なオイルが注目されていますが、オレイン酸(オメガ9)、リノール酸(オメガ6)、α-リノレン酸(オメガ3)などの「不飽和脂肪酸」を多く含むオイルが主役のようです。
オレイン酸(オメガ9)は、オリーブ油・菜種油・米油に含まれ血液中のLDLコレステロールを下げる効果があり、胃腸の働きや便秘の改善が期待できます。リノール酸(オメガ6)は、ごま油、大豆油、紅花油(サフラワー油)、コーン油に含まれコレステロール値を下げる作用がありますが、摂取しすぎると善玉コレステロールまで下げてしまう副作用が懸念されます。調理用の基礎オイルとして使われているものが多く、精油メーカーが飽和脂肪酸含有率を下げたり、コレステロールゼロなどの改良品を多数販売しています。
直近で最も注目度が高まっているものの一つがα-リノレン酸(オメガ3)です。これは、アマニ油、えごま油、魚油に多く含まれます。オメガ3とは、いわゆるDHA/EPA/ALAなどと呼ばれ、血液をさらさらにし、虚血性心疾患や動脈硬化などを予防。花粉症などのアレルギー症状を改善する効果も期待されています。
話題は変わりますが、油の分子構造にも注目が集まっています。脂肪酸は、分子の長さによって規定され、長鎖脂肪酸・中鎖脂肪酸・短鎖脂肪酸に分類されます。(※上述した「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」も、長・中・短のいずれかに分類されます)
話題の中心は「中鎖脂肪酸」です。「中鎖脂肪酸」は英語の頭文字をとってMCT(Medium Chain Triglyceride)オイルと呼ばれていますが、ココナッツやパームフルーツなどヤシ科植物の種子の核の部分に含まれる「飽和脂肪酸」のオイルです。実は、母乳や牛乳などにも含まれており、私たちが生まれた時から摂取しているオイルです。MCTは、一般的な油に比べて、4~5倍も速く分解され、短時間でエネルギーになることが特長で、脳や体のエネルギー源「ケトン体」を効果的に作り出します。医療現場では以前から低栄養状態の改善策として使われており、体に溜まりにくく、持久力アップやダイエット、むくみ解消など様々な嬉しい効果が期待できます。
この30年で、様々なオイルが登場し、私たちに豊かな選択肢を与えてくれています。期待できる効果などを吟味し、自分の食生活に適したオイルをバランスよく選びたいものです。