日本各地の「塩」がおもしろい

2024.05.11食べもの

財務省の令和4年塩需給実績統計によると日本の塩の自給率は、食用と工業用を合わせて11%と低く、年間、約700万トンも輸入していますが、食用塩に限っては自給率が高く、約85%が国内で生産されています。国産食用塩のほとんどが海水由来の塩ですが、今、日本各地で作られているご当地海水塩が注目されはじめています。

塩の自由化に伴う変化

1905年から1997年まで、日本国内において塩は国の専売品でしたが、2002年の完全自由化を機に、いまでは1,500以上の食用塩が商品化されています。従来、塩の種類は大きく分けて、自然塩(天然塩)と精製塩の2つがありましたが、自由化に伴い食用塩公正取引協議会が設置され、表記方法が大きく変化しました。例えば、自然塩(天然塩)などの表記が禁じられました。これは、自然、天然という言葉を使うことで消費者にあたかもよい品質、価値ある品質と思わせる、いわゆる思わせぶりな表示にあたるという理由からです。それまで自由に使っていた「ミネラルたっぷり」などの表現も禁止されました。

代わりに原材料、原産地、栄養成分などが表示されるようになり、製造方法の表示が義務となりました。具体的な表記内容を見てみると、原材料は、海水、海塩、天日塩、岩塩、湖塩の5種類があります。製造方法は、煮詰め、天日蒸発、採掘、全蒸発と、4つに分類されています。栄養成分や添加物の表記もされるようになり、ミネラル成分の配合量などもわかるようになっています。生産者は食用塩公正取引協議会が推奨する表示方法を遵守することによって、商品に「塩公正マーク」を付与され一定の信用を獲得することができます。私たち消費者にもメリットは大きく、こうした表記方法が定着することによって、安心して自分の欲しい塩を選ぶことができるようになりました。

今、全国各地で注目を浴びつつある海水塩も、こうした表記を守り、その上で、製造地の環境、製造工程などを詳しく訴求することによって差別化を図っています。

塩の専売店

各地の海水塩

各地の海水塩ブームに火を付けたのが、高知県黒潮町の完全天日塩です。東京出身のサーファーが、サーフィンのために移住した高知で「塩の匠」に出会い、師事し、約10年間の修行を経て、オリジナルの塩を作りました。塩を自在にコントロールできると自負する彼が作った塩は、いつしか口コミで広がり、有名レストランなどから注文が殺到。いまや、ふるさと納税の超人気品として様々なメディアから取材を受けるようにまでなりました。オーダーメイドで作る塩は、1kgで100万円の値がつくものもあります。温暖な気候や周辺の豊かな海の影響を受けた力強い味で、後味は柑橘を思わせるような風味があるのが特徴です。

次に紹介するのは青ヶ島の塩です。伊豆諸島最南端に位置する青ヶ島は、学術的にも珍しい複式火山の島です。青ヶ島の夜空は"天然のプラネタリウム"と呼ばれるほど美しく、海は青く澄み渡り、抜群の自然環境を誇ります。この火山の「ひんぎゃ」と呼ばれる地熱蒸気を利用して作りあげた塩も、全国各地から注文がきている海水塩です。海水を約60度の低温でゆっくりじっくり13日かけて結晶化させ、さらに6日後に釜上げします。にがり水分を落としたあと、再び、ひんぎゃの熱で4日間乾燥させてできあがります。普通の塩と比べてマグネシウムとカルシウムが多いのが特徴です。

最後は、沖縄の塩です。その魅力はなんといってもサンゴ礁に囲まれた海から汲み上げられた海水で作られているところです。サンゴは光合成をする際に海水の浄化だけでなくミネラルを放出する生態があるため、その海水には、ミネラルが豊富に溶け込んでいます。そのためか、宮古島の「雪塩」は世界で一番ミネラル成分の種類が多い塩としてギネスブックに認定されています。

他にも塩で町おこしを始めた伊勢の神島や古くから塩の産地として知られる瀬戸内の島々など、全国津々浦々、ご当地の塩のブームが、すぐそこまで来ている感じです。

高知
青ヶ島

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KEI

写真付きコラムの執筆。コミュニティクリエイター。フォーチュンテラー(タロット)。日本大学藝術学部写真学科卒業。

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