かき氷でひんやり、涼む夏

2023.08.14食べもの

スイカ、花火、浴衣、打ち水…日本には素敵な夏の風物詩がたくさんあります。そして、もう一つ忘れてはいけないのが、夏になったら食べたくなる冷たい甘味、かき氷。舌を真っ赤にしながら食べた縁日のかき氷の懐かしい味を今でも思い出しますが、ここ数年、かき氷の進化はめざましく、夏のスイーツとして人気を博しています。

かき氷の歴史

清少納言の枕草子第40段に「あてなるもの(上品なもの)」として”削り氷”という名前で登場したのが、日本におけるかき氷の始まりと言われています。
「削り氷にあまずら入れて、新しき金鋺(かなまり)に入れたる」
現代語訳:細かく削った氷に甘いつゆをかけて、新しい金の椀に盛りつけた
当時は冬の間にできた天然の氷を氷室という洞窟のような場所で保管し、夏になると貴族の元へ運ばれ、この時代の最高の甘味料である「あまずら」をかけて味わった貴族だけが楽しめる大変貴重なものでした。

江戸時代の末期には傷みやすいものの保存のために”氷”の重要性が注目され、日本各地で天然氷の製造・採取が行われるようになりました。1862年、横浜の馬車道に日本で最初のかき氷店がオープン。最初は氷を食べることに馴染みがなく、なかなか売れなかったのですが、その年の夏が暑かったため横浜の人々の間では爆発的な人気になりました。

明治の中頃に村上半三郎氏により”かき氷機”が発明されました。昭和初期には改良型の氷削機が普及し、かき氷はやっと全国的なものになります。戦前は砂糖をかけただけの「雪」、砂糖で作った蜜をかけた「みぞれ」、小豆餡をかけた「金時」の3つが人気になり、戦後になってようやくイチゴやレモン風味のかき氷専用シロップが登場しました。

昭和の氷削機

世界のかき氷

今は、昔に比べてたくさんの種類のかき氷があります。天然氷を使ったものや、様々なトッピングが工夫されたものまで。日本国内だけでも数え切れないぐらいですが、海の向こうにも色々なかき氷があるのをご存じですか?有名なところでは台湾のかき氷。氷にミルクが混ざっており、甘くてふわふわしているのが特徴です。

韓国の「ピンス」は、日本と同様、削った氷の上に甘味をトッピングするのですが、見た目も食感も大きく異なります。驚くべきはそのサイズ感です。日本のかき氷は1人で1個を食べるのが一般的ですが、ピンスは1個を2~3人でシェアして食べるので、かなりのボリューム感があります。食感もより細かく削られ、ふわふわとした口あたりでシャリ感はありません。

最近、日本でも注目されているのが「チェー」です。「チェー」は果物や小豆などの甘く煮た豆類、タピオカ、寒天などにシロップをかけて楽しむベトナムの伝統的なスイーツです。冬はあたたかいココナッツミルクをかけていただくのですが、夏にはたくさんの氷とミルクティーなどの甘いシロップをかけて楽しみます。たくさんの具材の上に乗った氷をしゃりしゃり崩しながら食べるので、日本のかき氷のトッピングとは逆の発想ですが、とてもおいしくて癖になる味です。

冷たいかき氷でひんやり涼む夏。この先、文明がどう進歩しようと日本の夏から「かき氷」が消えることはないと思います。子供の頃の夏に思いを馳せながら伝統的なかき氷を楽しむも良し、海外発のかき氷スイーツを楽しむも良し、暑さの厳しい今年の夏は、かき氷が◎です。

チェー
ピンス

− writer

placeholder image

かんのようこ

フリーライター。イラストレーター。絵本や「食」にまつわるエッセイなど執筆。

recommend

おすすめのコラム