おせち今昔物語

2021.12.17食べもの

おせちの作法

おせちは、漢字では「御節」と書きます。私たちはお正月料理と思っていますが、昔は元旦や五節句などの節日を祝うため、神様にお供えして食べるものを「御節供(おせちく)」と呼んでいたそうです。江戸時代に今のような正月料理として庶民に広がったと言われています。
おせちには、懐石料理のように一定の様式があります。その一つが「お重」です。正式には四段重、五段重と見解が分かれるようですが、それぞれの段にコース料理のような意味があります。
重ねた時に1番上にくる「一の重」には、祝い事にふさわしい祝い肴(ざかな)と口取りを詰めます。口取りとは、かまぼこやきんとんなど酒の肴になる料理です。他には伊達巻き、田作り、黒豆、数の子、きんぴらごぼう、昆布巻き、錦玉子などがあります。「二の重」は、縁起のいい海の幸を中心に焼き物を入れます。海老、鯛、ぶりなどです。「三の重」は山菜を中心とした煮物を入れます。れんこん、里芋、八つ頭、くわい、ごぼうなど。「与(四)の重」は酢の物、和え物など日持ちのするものを入れます。「五の重」は、年神(としがみ)様から授かった福を詰める場所として空っぽにしておくか、予備の料理などを入れるそうです。
ただし、元々、地産のものを神様に奉納する料理であったため、地方によっては入れるモノが異なる場合があります。例えば、一般的には「なます」は人参と大根のみを使用していますが、奈良県では人参の代わりに干し柿を、長崎県ではくじら、兵庫県ではしめ鯖のように海の幸を使う場合もあります。

時代を反映するおせち料理

かつて、おせちは「家で作る物」でしたが、バブル期から「お重を買う」に変化してきました。特にデパートや大手ホテルなどが高級なお重を販売したことがきっかけとなりましたが、近年、スーパー、コンビニ、通販まで広がり、今やお重販売だけで400万セット、600億円を超える市場になっていて、この20年間で市場規模は倍増しているそうです。
そんな中、おせちセットの今年のトレンドは「個食」と「高額」だと言われています。コロナ禍で外食できないことが続き、家庭での需要となるおせちの高額化(豪華化)が進んでいると大手デパート担当者の方々は口を揃えます。大手通販サイト担当者は「1人前おせち」の注文が目立つと言ってましたが、これも、感染を気にして共有するお重を避けた結果と見ているようです。
一消費者としては、デパートのおせちコーナーに行くと華やかで楽しく、特に有名料亭のおせちや、地方の名店のおせちなどは購買意欲を強烈に刺激してくれます。実は、昨年、某料亭の冷凍おせちを購入したのですが驚くほどおいしく、「これが冷凍?」と家族も驚嘆していました。
今年、私が目を付けたのは「ふるさと納税のおせち」です。山形、北海道、福島、岐阜、福岡など他にも多数のおせちが返礼品として用意されていましたので、私は、本来のふるさと納税の趣旨にもあっていると自負しながら故郷兵庫県の料亭のおせちを頼みました。
もう一つのおせちのトレンドがあります。それは、多くのレシピサイトをご覧になるとわかるのですが、お料理得意な方々が様々なアレンジレシピを提案してくれています。ベジタリアン向けおせちや、おせちスイーツなど、個性豊かなおせちが並んでいます。前述のとおり、私もお重セットを購入しましたが、プラスアルファとして、「黒豆パンケーキ」など、おせちスイーツを作ってみたいと思っています。

− writer

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かんのようこ

フリーライター。イラストレーター。絵本や「食」にまつわるエッセイなど執筆。

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