進化するミュージアム(後編)

2023.10.01おでかけ

前回、ガイド方法の進化やオンライン美術館をテーマとした「進化するミュージアム(前編)」に続いて、今回は後編として「体験・体感」をテーマに実例も合わせてご紹介します。

最新技術で体験する、芸術

従来、絵画などの美術作品は、展示スペースで目で見て楽しむ鑑賞スタイルが一般的でした。しかし、昨今、最新テクノロジーを使って作品を五感で味わえる新しい楽しみ方が登場しています。

「Immersive Museum(イマーシブミュージアム)」は、芸術作品を映像化し特別な映像と音響でアートを提供する体感型展覧会です。2023年9月末現在、「ポスト印象派」をテーマにゴッホやゴーガン、スーラ、セザンヌなどの代表的な作品を題材にイベントが実施されています。芸術家達のルーツとなった情景をダイナミックな映像作品に仕上げ、屋内空間に投影しながら、あたかも彼らの作品の世界に入ってしまったような感覚に陥る演出がされています。例えば、ゴッホの代表作である「星月夜」を鑑賞した来場者の多くは、「投影された美しい月や星を眺めていると、ゴッホの横に座って、彼が見た星空と同じ空を眺めているような感覚になれる」といった、今までの展覧会にはなかった感想を残しています。

驚くべきは「インタラクティブエリア」での演出です。なんと、自分の肖像画をゴッホに描いてもらうことができます。真っ白なキャンバスの前に置かれた椅子に座ると、センサーが顔を認識し、AIが学習したゴッホのカラーパターンや筆のタッチを元に肖像画が描かれます。完成した肖像画はQRコードから携帯にダウンロードもでき、ゴッホの繊細かつ大胆なタッチで描かれた世界に一つだけの肖像画が手に入るのです。

見て、触れて、感じて、空間を共有し、最後に被写体にまでなれるのですから、10年前では体験できなかったイベントです。

増える「親子で体験型ミュージアム」

近ごろのミュージアムは、子ども達が楽しく学びながら、知識や感性を身につけることができる施設やアクティビティがたくさん用意されています。例えば、自分で書いた絵が館内の壁中をデジタル画像として移動して、さらに他の絵とコミュニケーションまでしてしまうアート空間があります。ここでは、お互いの絵が触れあうことで、作者同士が仲良くなるケースが多々あると聞きます。また、神奈川県にある美術館では、小学校6年生までを対象に粘土や絵の具を使って作品を作ったり、子どもが興味をもつようなミニ展覧会が開催されるなど、美術の感性を引き出すきっかけになるように最大限の工夫がされています。他にも、全国各地、子供向けのイベントや体験講座、ワークショップなどが、多くのミュージアムで頻繁に開催されています。

一方で、静かな環境で絵画を楽しむような一般的な美術館でも、最近は、親子連れの方が目立つようになりました。施設側としてもマナーを守った上でなら、子どもにも純粋にアートを楽しんで欲しいという姿勢が見られます。例えば、施設内で子どもをしっかりと見守りながら鑑賞する親御さんのために、手荷物を預かるサービスを実施している美術館。アニメキャラクターとタイアップして、子ども達用の解説がキャラクターの声で流れるイヤホンを貸し出している展覧会。小さな子どもがぐずり出したら、一呼吸入れるために休憩できるスペースを設けているミュージアム。他にも、グッズ売場には子ども向けのグッズが多数並ぶなど、子ども連れの方を意識した工夫をしている美術館は、徐々に広がっています。

素直な感性を持っているうちに、"本物"にいい形で出会うことは、子どもにとって大きなチカラになると思います。まだ、親子で体験したことが無いという方は、一緒に出かけてみてはいかがでしょうか?(参考までに、小学校卒業までは入場無料の施設が多いです)

ミュージアムに行ったら何を、どういう風に楽しむか、事前にしっかりと子どもと会話をしてから臨むことが、親子でミュージアムを楽しむ成功の秘訣だそうです。

− writer

placeholder image

KEI

写真付きコラムの執筆。コミュニティクリエイター。フォーチュンテラー(タロット)。日本大学藝術学部写真学科卒業。

recommend

おすすめのコラム