アートによって深まり、賑わう町を創る

2023.02.28おでかけ

過疎化が進む地方を創生することは日本の大きなテーマです。多くの地方が地域の特性を生かした創生プログラムを創り、町への興味を喚起し、最終的には移住者を増やすことを目的に活動しています。今回は、特に「アート」を軸に地域創生を目指すいくつかの事例をご紹介します。

瀬戸内に広がるアートの島々

瀬戸内と言えば、かつては「みかん」「オリーブ」「海産物」といった一次産業由来の印象が強かったのですが、若い人や外国人の間では、今や、アートの島々というイメージが定着しつつあります。
一番最初に有名になったのは「直島(なおしま)」です。直島は、香川県香川郡に属する島で、高松港または岡山の宇野港から1日20往復以上の船便が出ています。元々、1980年代から町長の肝いりで、町内の学校や役場などの公共建築物を新進気鋭の建築デザイナーに依頼したことで話題になったのが発端でした。奇抜なデザインの建物を一目見ようと観光客が訪れるようになりました。この姿勢に共感した教育関連企業がこの島をアート溢れる島にする計画を立案し、自治体と一緒になって、アートによる町おこしへと展開していきました。直島のアートは、美術館だけに留まらず、島中に芸術的なアートがちりばめられています。有名な草間彌生さんのオブジェは、多くの方が一度は雑誌やテレビで目にしたことがあるのではないでしょうか。
2010年にスタートした瀬戸内国際芸術祭によって、直島の知名度はグローバルに広がりました。この芸術祭は、美術作品、アーティストや劇団・楽団などによるイベント、地元伝統芸能・祭事と連携したイベントなどで構成されています。今では、直島に留まること無く瀬戸内の島々(豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、沙弥島、本島、高見島、粟島、伊吹島)に広がっていますが、直島だけでも年間70万人を超える観光客が訪れています。ここ数年は、移住するアーチストも増え、同時にアートに関わりたいという方々や宿泊施設やカフェなどを経営する人の移住も増えています。全ての人々に共通するものは、島をこよなく愛していること、そして、島を訪れる人々に素敵な時間を過ごして欲しいと願う気持ちのようです。

山村の芸術祭

「中之条ビエンナーレ」は群馬県中之条町で開催される国際現代芸術祭です。大きな山々、湿原、温泉など豊かな里山文化を維持する山村地域の特徴を生かした他では見られないイベントとなっています。
この芸術祭ではアーティストに宿泊施設を無料開放する滞在制作を積極的に取り入れています。滞在しながら町の魅力に触れ、人々と交流を深めてからアーティストがのびのびと独自の視点で作品を作ることによって、町の新たな魅力の発見にもつながるのではないか、という視点に立った活動です。つまり、参加アーチストの存在自体が町の魅力を広める媒体になってくれているのです。
また、外からのアーチストだけではなく、住民の作った作品を展示する小規模のアートフェスを開催するなど、住民自身も自分たちでプロジェクトの担い手として活動することで、地域創生に最も重要な住民のやる気に火を付ける役割を果たしています。結果として、滞在をきっかけに移住するアーティストも増えつつあり、アートが息づくクリエイティブタウンとしての道を着実に歩み始めています。

地域創生における「アート」は、アーティストの発想力だけから生まれたものではなく、その土地だからこそ生まれた作品や、地域の人々との交流から生まれるものもあります。なにより、「アート」が住民自身の手の中や心の中に降りてくることで、誰もがアートに携われ、活気のある町を創っていく。それが地域創生における「アート」の最大の長所だと感じました。

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KEI

写真付きコラムの執筆。コミュニティクリエイター。フォーチュンテラー(タロット)。日本大学藝術学部写真学科卒業。

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