2024.08.11暮らし
7月3日に新紙幣(日本銀行券)が発行されました。一万円札は日本の資本主義の父とされる渋沢栄一、五千円札は女性の地位向上を目指して教育に尽力した津田梅子、千円札は破傷風の治療法を確立させた微生物学者の北里柴三郎とそれぞれ新しい顔へと変わりました。新紙幣発行は、単なるデザイン変更に留まらず、経済や技術、安全性、そして文化的な要素が絡み合う複雑なプロセスです。ですから、その背景には、様々な目的や裏事情も存在します。
まず、新紙幣発行の主な目的の一つは、経済的な要因に基づいています。紙幣の刷新は、経済の健全性を示すシンボルとなり得ます。例えば、日本銀行は新紙幣発行を通じてインフレ率やデフレ圧力をコントロールしようとする意図がある場合があります。新紙幣のデザインや機能が経済活動を活性化させ、消費者の信頼感を高める効果が期待されることもあります。
次に、新紙幣発行の背景には、技術革新と安全性の向上があります。偽造防止技術は年々進化しており、新紙幣には最新の偽造防止技術が導入されます。ホログラム、特殊インク、マイクロ印刷など、さまざまな技術が紙幣に組み込まれ、偽造紙幣の流通を防ぐことが目的です。今回は3D画像が回転するように見えるホログラム技術が初めて採用されました。同時に、誰でも使いやすいようにと、ユニバーサルデザインが導入されており、額面の洋数字が以前の紙幣と比べてより大きくなったことや指で触れて識別できるマークもよりわかりやすいものへと変更されました。
新紙幣発行を受けた消費喚起策が実は様々なところで行われていました。
ある百貨店では旧一万円札の肖像にちなんで「諭吉感謝セール」と銘打った、一万円で販売されるセールが開催されました。うなぎや海の幸などの高級な食材からパールのアクセサリーまで、様々なアイテムをそろえた結果、セールは大盛況に終わったそうです。なかでも、旧一万円札をモチーフに純金で作られた一万円札は今回の目玉商品として100万円で販売され、事前に用意されていた10点が即日完売するほどの注目を集めました。他にも、京都の老舗菓子店では新紙幣のデザインをあしらった米菓が発売されたり、渋沢栄一が創立に関わったホテルでは渋沢栄一にちなんだメニューが提供されたりと、新紙幣発行に伴う様々なイベントが実施されました。
こうした賑やかなイベントの裏で、新紙幣への対応を契機にキャッシュレス決済の導入を進める動きも活発化しました。一部の高速バス会社では、現状、バス料金の支払いのほとんどがキャッシュレス決済に集中していることから、現金決済用の機械を新紙幣に対応させることを止め、運賃支払い箱が廃止されました。近年、少額の消費に関しては、キャッシュレス決済が主流となりつつあり、将来、”デジタル円”(日本銀行から電子データで発行されるお金)の導入が進めば、さらにその傾向は加速するはずです。そのため、今回の新紙幣が紙のお金としては最後になる可能性が高いとも言われはじめています。
100年後に歴史を勉強する子供たちが「ねえ、ねえ、昔はお金って紙だったんだって。知ってた?」なんていう会話をするのでしょうか?