旅とボランティアの新しい関係

2023.10.23暮らし

ここ数年の国内旅行における宿泊先の選択肢としてゲストハウスが人気を集めています。ゲストハウスとは簡易的に泊まれる宿で、基本は素泊まり。設備としては、リビングやキッチン、シャワー、トイレなどの共有スペースがあるのが特徴です。お部屋は仕切りのついた二段ベットに泊まるドミトリータイプから個室タイプまで様々ですが、共有スペースが多いため宿泊者同士で気軽に交流することができます。また、多くのゲストハウスでは旅人でありつつスタッフでもある「ボランティアスタッフ」がいて、宿泊客と一緒にご飯を食べたり、色々なアクティビティを通じて楽しい時間を過ごしたり。ゲストハウスは、低料金が魅力なのですが、この交流(コミュニケーション)が、人気の秘密でもあるようです。

ボランティアスタッフとは?

ボランティアスタッフは、宿から寝床と食事、光熱費などを提供してもらう代わりに1日数時間、2~3ヶ月に渡って宿の仕事を手伝います。(これを、フリーアコモデーション方式と呼びます。)
主な仕事は宿の清掃やベッドメイキングなのですが、宿が彼らに期待していることは、ゲストとの交流です。ボランティアスタッフは地域外から来た方が多いので、彼らが伝えてくれる情報は、旅人と住人の両方の視点に立った内容になります。つまり、観光ガイドブックやトラベルサイトに掲載されている情報以外のものであったり、掲載されている情報でも、よりリアルで深掘りされたものになるからです。
また、ボランティアスタッフは、旅の途中、宿に魅力を感じそのまま長期滞在し、結果ゲストハウスのスタッフになったという人や、ゲストハウスを将来経営したいと、修行の場としてそこを選んでいる人もいて、お金のためではない価値観を持って働いているので、いわゆる「やる気のない」「お決まりの」対応ではなく「心のこもった温かい」対応をするスタッフがほとんどです。そのためか、自ずとゲスト自身もボランティアスタッフとコミュニケーションを取りたくなるようです。宿泊客のアンケートなどでも宿の魅力の1番にあげられるほど、ボランティアスタッフによるゲストとのコミュニケーションは重要なものになっています。

新しい旅の形

ボランティアスタッフもゲストとの交流に魅力を感じている方が多いのですが、そもそもはフリーアコモデーション方式という働き方そのものに特別な意義を見いだしているようです。つまり「暮らすように旅ができる」点に意義があるのです。割り当てられたシフトの時間以外は自由な時間も多く、街を観光したり、街に暮らしているひとたちと顔馴染みになったり、時間をかけてより深く、より丁寧に街と接することができます。
半ば自然発生的に広がっていったフリーアコモデーションですが、これを、一歩先へ進めた「おてつたび」というサービスアプリがあるのをご存じでしょうか?
「おてつたび」は2018年に日本各地の素敵な地域へ行く人が増えて欲しいという想いから生まれたサービスで、「お手伝いしながら旅をする=お手伝い+旅」ということで、旅行をしながら地域の魅力を体験しつつ、お手伝いによる報酬も貰うこともできるサービスです。知らない場所を知るきっかけになり、旅費も削減でき、さらには、地域の人々とコミュニケーションもしっかり取れるため、学生や20代を中心に急激に利用者を増やしています。基本的には1~2週間の「おてつたび」が多いのですが、中には数ヶ月から半年というものもあります。例えば、10日間の滞在型旅行が10万円だったとした場合、1日5時間、宿の食事準備のお手伝いをすることで宿泊費が3万円になるといったプランです。前述したボランティアスタッフよりは、かなり旅行に軸足をおいた内容になっています。

コロナ禍において「ワーケーション」という言葉が流行しましたが、その際に「おてつたび」を利用して、1日2時間のお手伝いをしながら自分の仕事も6時間する。お手伝いの報酬で宿泊費用が安くなる分、滞在期間を少し長くできるため、空き時間にたっぷりと、その土地の魅力も味わえる。こんな理想的なワーケーションを実行した方もいたと聞きました。旅好きな方はもちろん、気になっている街をもう少し深く知りたい方、地方移住や二拠点生活などに関心がある方などなど、年齢・性別を問わずサービス利用者が増えています。

フリーアコモデーションが旅の形や目的を変えてくれる、そんな時代が来たようです。

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KEI

写真付きコラムの執筆。コミュニティクリエイター。フォーチュンテラー(タロット)。日本大学藝術学部写真学科卒業。

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