スマートで変わる日本の農業

2023.10.31暮らし

日本の農業は多くの問題を抱えていますが、最大の問題点は農業従事者の高齢化と後継者不足による農業人口の減少です。その結果、耕作放棄地や荒廃農地が増加し、エネルギーベースでの食糧自給率は40%を下回るまでになっています。この問題を解決するために2009年に農地法が改正され、従来”所有”が基本だった農地を”貸借利用”へと転換することにより、NPO法人や一般企業が農業に参入しやすくなりました。以降、この10年間で諸問題の解決のために農業の効率化・デジタル化が一気に進みました。そのうちの一つが、ロボット技術、インターネット、AIなどを活用した「スマート農業」です。

スマート農業の主な取り組み

スマート農業の取り組みとは、いったいどのようなものなのか、例を挙げて主なものを紹介します。

【ロボット技術】

ロボットは農業の様々な分野で活躍しています。自動操縦の農機ロボット、自動収穫ロボット、農薬散布などの重労働を担う自動飛行ドローンなど、これらのロボットが、より安価に使えるように導入コストの低減も進んでおり、人出不足を補うための最有力な技術になります。

【人工知能(AI)】

AIは新規就農者向けの技術やノウハウをシステム化して提供することに活用できます。例えば、ハウスに設置された各種環境センサーからの情報をクラウドに蓄積し、管理・分析。そして、クラウド内にある栽培アルゴリズムに基づき、現在の作物の生長に必要な潅水量と施肥量を割り出し、自動的に供給するというシステムがあります。これは、蓄積されたビッグデータを基に、AIが分析し最適な栽培環境を作るというものです。かつての農業は“経験と勘”が物を言う分野でしたが、いまや“AIによるデータ運用”により、農業の経験や知識がない人でも、農業に取り組むことができ、サスティナブルな農業が成立するようになりました。

【IoT(Internet to Things)】

IoTとはモノのインターネット化という意味で、ネットに繋ぐことによってモノの操作ができるなど、高速回線の5G時代だからできる技術です。IoTもまた、農業の諸問題を解決する大きな可能性を持っています。
遠隔操作できる農業ロボットの場合、都会に住んでいても自宅のパソコンとロボット耕運機をネットで繋いで、まるでゲーム機を操作しているような感覚で耕運機を操縦できます。常時、田畑に足を運ばなくても、オフィスにいて田植えをしたり、農薬散布をしたりする時代が、目の前まで来ているのです。

スマート農業の課題と展望

スマート農業の先進国オランダは、耕地面積が日本の4分の1、農業人口は日本の7分の1以下にもかかわらず、農業輸出額は米国に次ぐ世界第2位の農業大国です。つまり、日本も将来的にはオランダ以上の農業大国になる可能性を秘めているのです。スマート農法の定着こそが日本農業の発展への最大の鍵と言えます。

しかし、導入にあたってのイニシャルコストが、通常の農機と比べて割高なため、一般農家には大きな課題となっています。他にも、ロボットやIoT関連を使う際には、ソフトウェアやデータが必要になってくるのですが、現在は、先行メーカーが独自規格で開発を進めているケースが多く、OSやミドルウェア、農業関連データなどがバラバラな規格となっていることもしばしばです。長期的な視点で保存や管理、移行することを考えると、将来的に規格を標準化することが重要になってきます。どちらも、開発メーカーの不断の努力が求められるものです。

一方で、スマート農業は日進月歩で発展しつつあり、導入コストを支援するサービスや使う側のITリテラシーを高める教育サービスなども徐々に出始めています。労働力不足や高齢化、技術の継承といった現在直面している課題を克服し、ビッグデータやAIによる未来予測で農業をサスティナブルな産業とするためにスマート農業の活用とさらなる発展に期待したいと思います。

− writer

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甲斐 ツマオ

エッセイスト。漫画原作者。映像作家。

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