最新の宅配事情

2022.03.01暮らし

物流クライシス

コロナ禍における通販需要の高まりも手伝って、業界内では「物流クライシス」と呼ばれる物流の問題点がクローズアップされている。特に日本の国内輸送の9割を占める「トラック輸送」は、大きな危機をはらんでいる。一つ目は、前述の通りインターネット通販や個人間売買など、個人向けの宅配需要が劇的に増加していること。二つ目は、低賃金、長時間労働、さらには過酷な荷役業務を課せられるトラックドライバーが圧倒的に不足していることだ。内閣府の予想では、2030年までにトラック輸送における供給は約3割減る一方、需要は増加し続けるため、10年以内に消費者に物が届かないという状況が起こるという。簡単に言うと、物は増えているのに、運ぶ人は減っているという訳だ。
そこで内閣府では、「戦略的イノベーション創造プログラム」の一環として「スマート物流サービス」を提唱している。このサービスの論旨は明快だ。物流には地域物流と幹線物流があるが、幹線物流において積載量の9割以上で大阪・東京間を搬送しているトラックもあれば、6割で搬送しているトラックもある。この情報を共有化し、さらには荷主の理解を得て計画輸送を実現し、どの車両も限りなく10割に近い積載量で輸送しようというものだ。地域物流における集約拠点の整備と役割分担なども同時に行われ、輸送のムダ・ムラとドライバーのムリを無くすことが業界の急務となっている。

未来の配達システム

トラックに頼らない幹線物流や地域物流の試みも様々な形で実施されはじめている。その一つが「新幹線物流」だ。JR東日本は2017年から、産直市場など地域創生イベントで東北新幹線を使った農水産品の輸送を行ってきた。荷物輸送に使う新幹線のスペースは、車内販売の縮小で余った車販準備室を活用しているのが現状だが、将来的には荷物をパレットに載せる「パレット式専用車両」を検討しているという。
東武鉄道では、東武東上線沿線の農産物直売所で売れ残った野菜を池袋まで鉄道で輸送し、駅構内で販売するという実証実験が行なわれた。京浜急行電鉄も電車で野菜を運搬する実験を実施。同じくJR西日本は、京丹後や福知山、舞鶴といった京都府北部の地域産品を電車で輸送し京都駅で販売するイベントを開催した。いずれも小規模かつイベント的ではあるが、消費者にとっては魅力ある商品を手軽な価格で入手でき、鉄道会社にとっては人以外の輸送拡大のみならず沿線の魅力や観光スポットなどをアピールできるため、この新しい物流は、新しい消費を生み出す可能性を秘めている。

最後に、世界的に話題になっているのが「ドローン宅配」だ。日本政府のドローンの利用のレベルは4段階にわけられており、物流に関係するレベル3の「無人地帯での目視外飛行」についても、離島や山間部などの人の少ない地域で、すでに日本郵便や大手ネットモールなどがサービスを開始している。この次の段階であるレベル4の「有人地帯での目視外飛行」は2022年度に認可されると言われているが、これが実現すれば、都市部など人がいるエリアでのドローンの自律飛行が可能になり、物流インフラとしてのドローン活用の起爆剤となるとみられる。米国や中国では、すでにレベル4が実現されている。日本においては5G通信が確立される2026年頃、一気にドローン宅配が増え、日本の空の景色を変えるだろう。余談だが、人が乗れるドローンもすでに開発されている。様々な法整備や技術整備がなされれば、バイクがドローンに代わり、人々が夢見たスターウォーズのような未来が、すぐそこまで来ているということだ。

− writer

placeholder image

甲斐 ツマオ

エッセイスト。漫画原作者。映像作家。

recommend

おすすめのコラム