2020.07.07キレイ
およそ10年前ぐらいからだろうか、GジムやRジムがTVでCMをガンガン流すようになったのは。「健康のため」という、目的が漠然としていたそれまでのフィットネスジムに、「ダイエット」「ボディメイク」といった明確なコンセプトを与えたという点において、これらのCMが果たした役割は大きい。同時に、多くのユーザーがトレーナーの指導の重要性にも気づき始めた。空いた時間にジムに行って、適当にランニングマシンを走り、エアロバイクを漕ぐだけでは、ストレス解消にこそなれ、「やらないよりマシ」程度のものだということに。
このあたりから、「ダイエット」や「ボディメイク」に関心のあるユーザーは、自分の目的や体力に適したトレーニングをトレーナーの正しい指導の下で実践することこそが、目的達成への近道だと理解し、従来型のフィットネスから、一気に「パーソナルトレーニング」への流れができ始めた。この流れは、大手ジムに留まらず、トレーナーとユーザーがマンツーマンで対面する「パーソナルトレーニングジム」へと加速する。2015年あたりからは、都市部を中心に15畳程度の店舗やマンションの一室を使った「パーソナルトレーニングジム」が雨後の筍のように出現する。当初は、Rジムの亜流のようなジムが多かったが、ここ数年、それぞれトレーナーの個性や能力、さらには立地条件などを活かした個性的な「パーソナルトレーニングジム」が散見されるようになった。
江ノ島の片瀬海岸からほど近い場所にある「NALU」は、完全予約制の女性専用パーソナルトレーニングスタジオだ。主宰でトレーナーの道上香織さんは、大手スポーツメーカー勤務後、2017年にオープンさせた。ダイエットやボディメイクといった言葉だけで集客するジムが多い中、ここのコンセプトは、真摯に自分の身体と向き合って、身体の動きやシルエットを、ゆっくりと、着実に自分の手に取り戻すことに軸足を置いている。そのため、ここに通うユーザーは、運動が好きではない方や苦手な方が多いと言う。
「運動が苦手な方でも、昔はもう少し身体が動いたとか、上腕のたるみが今ほどでは無かったなど、気にはなさってはいるんです。でも、自分には無理だとか、人前では恥ずかしという気持ちの方が勝ってしまうんですね。でも、パーソナルトレーニングなら自分とトレーナー以外に誰もいないですし、自分ができる範囲からスタートできるので、どんな方でもやれるんです。」と道上さんは言う。
「NALU」の場合、江ノ島という立地条件を活かし、海辺のランニングやSUP(スタンドアップパドルボード)などに発展できるプログラムも用意されている。道上さん自身、トレイルランニングの愛好者であり、かつ、SUPのインストラクターでもある。通って2年になるというKさんは「パーソナルの名に相応しく、本当に、自分の個性や体力に適したプログラムを提供してくれます。その上で、ランニングやSUPのように、少し先の楽しみも見せてくれるのがカオリン先生(道上さん)の魅力です。」と言う。「パーソナルトレーニングなので、レッスン予約は個人の約束に近く、自主レッスンだとサボってしまうような方でも続けられるし、トレーナーとの精神面での結びつきも強まります。」と、Kさんは付け加えた。
新型コロナ過において、ジムは最初に営業自粛を迫られた業態だ。ほとんどのジムが、この3ヶ月間、スタジオでのトレーニングは実施していない。しかし、「NALU」はZOOMを使ったオンラインレッスンをいち早く採り入れて、SNSの口コミなどにより拡散を図ったところ、思わぬ結果が出たと言う。男性や遠隔地のユーザーといった今までにないユーザーを獲得したのだ。ソーシャルディスタンスを意識せざるを得ない時代が、続くであろう社会において、パーソナルトレーニングは「密」を避けるという意味でも、また、オンラインでも展開可能という面においても、強みと魅力を持っている。
今後も益々「パーソナルトレーニングジム」が日本各地に誕生するであろうし、すでに、自分に合ったジムを見つけるための「マッチングアプリ」もユーザーが急増していると聞く。これからのジム選びは、料金や設備だけではなく、ジムのコンセプトやトレーナーの個性、もっと言えば人間力などが問われる時代に入って行くのかもしれない。今回の取材で感じたことは、「パーソナルトレーニングジム」の楽しさは、コミュニケーションの楽しさでもある。という事だった。